Blue Moon.

花咲く季節

それはまだ私が幼いときのことです。
もしかしたら、そのときの歳は両手の指で数えられるほどのときだったかもしれません。

私には兄がいました。確か、5つか6つほど上だったと思います。
髪型や髪の毛の色、目の色が私と良く似ていて、こんなにも歳が離れているのに双子に見られたこともありました。 そんな兄は明るくとても勉強家で、沢山のことを知ることが何よりも大好きでした。 ですから、昆虫のことも草花のことも、身近なことなら大半のものは答えられてしまうような人でした。

私はそんな兄がとてもとても羨ましくてやまなかったのですが、到底追いつけるはずもありませんでした。 悔しいなと思う反面、やはり凄いなとか、そういうものを感じられる方が大きかったりしました。 好きだからこそ範囲を、可能性を広げられるのだと、彼から学んだような気がします。

そのうち、自分も何か好きなものを見つけたいと思うようになりました。 その頃の私はこれといって特定のものを大変好んでいる訳でもなく、表面上、なんとなくといったところでした。 ですから、彼のように何か細かいことを芯まで知っている訳でもなく、ただなんとなく、というだけの自分が気に入らなかったのかもしれません。

そんなもんやりとした気持ちの中悩んでいると、兄はそれに気付いて言葉を掛けてくれました。 好きであるなら何でもいいと、どう好きであってもいいんじゃないかと、そう言っていまいた。 兄はたまたま好きになっていく過程で詳しい方向に向かってしまっていたのだと、苦笑いしながら言っていたのを覚えています。 自分は兄の言葉に対し、そういうものなのかなと多少の疑問を抱きつつも、今の道に至れたような気もします。

ただ、その当時の私は、自身の兄のことも、兄の言葉も何よりもとても興味深く感じていました。

その兄は、突然ぱったりと、存在そのものが丸ごと無くなったように姿を消し、今でも何処に居るか分かりません。 そして私はその兄を捜しつつも、好きになったことである世界をただただ歩き続けることを今も続けています。 偶然鉢合わせたりしてしまいそうな程、自由奔放で気楽な彼のことですから、きっとそのうち会えてしまうんじゃないかと思ったりもしています。

私と同じく旅をしているならば、いつか出会いたいなあ。


―ある旅人の手記より。

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