Blue Moon.

ことのは

「リアス」

ふと、正面に座る彼女の名を呼ぶ。彼女はそれに気づき、こちらを向く。
「どうしましたか?」と、首をかしげ笑顔を見せていた。
その自然な笑顔のせいで、何を聞きたかったのか、何をしたかったのか忘れてしまった。 ただ彼女の笑顔を見たかっただけなのかもしれない。自分は頬杖をつき、彼女を見つめていた。

「ロイトさん、やけに嬉しそうな顔をしてますけど、何かあったんですか?」
「ん、いや、なんでもないさ」

なんとなく、ふわりと心が和らぐんだ。そう言えればまた違うだろうけど心の中に封じ込める。 というよりも、そこまで顔に出ていたのだろうか。なら彼女の目には自分はどう映っていただろう。 それに深い意味は無いのだが、人の目とはやはり気になってしまうものだ。 たいして彼女は嫌な顔はしていないから、きっと変な笑みでもしていたのだろう、そう願う。

まあ、彼女はマイペースな人だから、それが正しいのかも全くもって分からないのだけど。


時計を見れば、既に夜の12時近くを回っている。
今更だが、コバルトの姿は無い。何だか機械関係の本が買いたいとかで、早く寝ると言っていた。 自分の気のせいでなければ、彼は目覚まし時計もいらないくらい予定の時間にぴったり起きる。 こんな時間になってから寝ても早起き出来ると思うのだが……。 けれど一人話し相手が減ったぐらいで何が変わるわけでもない、そう思い、その事は流れるように忘れた。


「リアスは寝ないのか」

そう聞いてみると、彼女は首を横に振って、また笑顔を見せた。
なんだろうか、彼女の笑顔は何度見ても癒される。特に何も悩みがある訳ではないが、落ち着く。
自分がこういった人と付き合ってきたことはないから、体が自然と喜んでいるのか。 それとも彼女が、幸せな家庭に恵まれてきて、自然と人を喜ばせる力を身につけてきたのか。

考えれば考える程に、色々と脱線していきそうでならない。これもまた、流れるように忘れることにした。



ずぅ、と、ココアをすする音。ほんのりと漂う甘い香り。口にしていないのに暖まる空気。

それは不思議と眠気を誘う。うとり、うとりと確実に一歩ずつ、睡魔は近づいていた。 それを見た彼女は、「もう寝た方がいいですよ」、と、私に向かって笑顔で言った。 自分は流れるように、言葉に沿うようにふらりと自室へ流れ込み、何事もなかったかのように眠る。 それは感覚的に起こったことなのか、それとも彼女が優しかったのかどうかは分からない。

ただ、自然と心の中が和らいだだけのこと。


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